まだ

まだ降らないか
あの白い アレ
ふわふわした
あの白い アレ

まだ歩けば
上着いらない
穏やかだけど
まだ降らない

まだ凍らない
あの固い アレ
つるつるした
あの固い アレ

まだ歩けば
上着いらない
穏やかだけど
まだ凍らない

これが私の生きる道?!

第二章 ようこそ! ユメノ荘へ ⑶

「そんで、今夜のメニューは!? 」
「今のところ、お刺身にしようかと」 
 くるみには、悪気がない。
 静香も、それは知っている。
 だが、今にも失神して昏睡状態の寸前にまでいきそうな桜井を横目に、静香は本気モードで腕を組んで考え込み始めた。
 その真剣さに、
「どうかしましたか」
 くるみが静香の顔を覗き込んだ。
 しかし、唸るだけで静香は何も言わない。 そして、五分ぐらい経過した。
 鮪も解凍していた。
 静香はくるみの肩に手を添えて、真剣な表情で言うた。
「なぁー、シェフ」
「はい、何ですか? 」
 くるみは、純粋無垢な顔を静香に向けた。「人間、一個ぐらいは死んでしまう寸前な程に、嫌な食べ物があるのは分かるだろ? 」 これ以上にない、切り出しだ。
 この一言ならば、普通はどんなに鈍感な人でも気付くはず。
 いや、気付いて当然だ。
 静香、特に桜井は祈るように待った。
 くるみは静香の真似ではないが真剣に考え込み、軽く手打ちをした。
「お二人とも、もしかして……」
 思わず、静香は拳を握り締めた。
 桜井も急に立ち上がった。  
 二人とも、救われる寸前に到達したと思われた。
 だが、自称『料理の哲人』は違った。
「お刺身が嫌いなんですか? 」
「いや、刺身というより、その材料に問題がある……って、なにしてんの」
 いつの間にか哲人は静香に聞く耳を持たずに、ガスコンロに点火して鉄製のフライパンを熱し始めた。
 桜井も呆然と見つめる。
 そんな二人に振り向き、笑顔で答えた。
「やはり、鮪のステーキに致しましょう」 静香は、
「こりゃあ、アカンわ」
 額に手をあてた。
 桜井は打ちのされて燃えつきたボクサーよりも酷い仕打ちを受けた後のように、その場に全身を強く打って倒れてしまった。
 ただ一人、不思議そうに二人を見るくるみは、
「う〜ん、いい匂い」
 と、最後まで気付かずに調理を始めたのであった。