これが私の生きる道?!

第一章 お笑いなんて、大嫌いっ!!(10)

 その二分後。
「遅いなぁ〜」
 ホールの入り口で立っている奈々子が、雲一つもない空を見上げていた。
 はぁー。
 カクンと頭が下がり、奈々子の体はホールの壁に凭れる。
「散々だったなぁ〜、今日も。お客さんに愛想つかれてたみたいだし、いったい、何処がいかんのやろーか!? 」
 独り言を呟く。
 そして、またしても溜め息が出た。
 右の手に持っているビニールの袋を見て。本来なら奈々子の荷物は左の肩に掛けてあるスポーツバッグ一つだが、こうして女の子が一人で突っ立っていると何処となくチラシを配っている人達から貰ってしまうのだ。
 大半がピンク色に染まっている、ティシュペーパーだ。
 この時点でも二ヵ月分は節約は出来る量を見て、
「一日いたら、一年分は貰えそうだ」
 不可能とは言えない、現実性の帯びたことを呟くだけなら、まだ可愛い。
 奈々子はある特定の箇所に目を落とし、
「……バイトでもいいんやろか? 」
 危険一杯の台詞を口走る。
「どのぐらい、稼げるんやろうか? 」
 かなり、危ない台詞が連発する。
 目の色も、かなり危ないサインが激しく点滅している。
 奈々子は、自分の唾の飲む音を聞いた。
 無意識にバッグに手が伸び、取り出される携帯電話からかけようとした寸前、
「何してんの?ナナちゃん」
 両肩を捕まれ、覗き見る格好で瑠伊が耳元で囁いた。
 硬直する、奈々子。
「え!? え? いつからいたの?! 」
「テッシュ見て、自分の世界に入ちゃってるトコロから」
 声が上擦っていると指摘されるが、後退りして携帯とティシュをバッグに押し込み、瑠伊から離れる。
 少し遅かったかなぁーと、奈々子は確信していたが、
「ん? 」
 瑠伊は、首を傾げている。
 はぁーと、奈々子は安心した。
『ど、どーやら、バレてないみたいね。』
 奈々子は顔を紅潮させ、上手く口も回らないのに、
「でね。う、うん。い、行こうかね。あははは……」
 誰から見ても百パーセント、動揺した態度で瑠伊に接していた。
 それでも瑠伊は、首を傾げていた。
 そして、気が付いた。
『やっぱり、気にしているんだ。今日の漫才のデキを』
 瑠伊は声に出さずに、胸の中で終わらそうとした。
 そして、二人ともお互いの顔を見つめると勝手に、
「あははは」
 と、笑ってしまうのである。
 この二人の仕草を見ている人でさえ、思わず首を傾げてしまう程である。当の二人でさえ、何が可笑しいのかも全く分からないのであった。
「ところでさぁー。ナナちゃんの寮って、何処にあるの!? 」
 瑠伊は、奈々子に聞いた。
 正直に言えば、瑠伊は奈々子に詳しいことを聞いてなかった。瑠伊はとにかく普通の生活をしたい為に、マンションを出ようと決意したのである。
 普通の生活。
 瑠伊にとっては、
「いい加減、パパから離れないとお笑いタレントにされてしまう」
 舞台から、一太郎から遠い存在での生活のことを指していた。
 奈々子に相談したとき、奈々子が実際に何処まで瑠伊の本心を見抜いたかは定かではないが、快く引き受けてくれたことには瑠伊は感謝している。
 その時に奈々子は、こう言った。
「私の隣の部屋が空いてますから、そこで暮らしてはいかがですか? 私の寮、元々は温泉旅館だったから、露天風呂もあっていいですよ」
 と。
 瑠伊はそれだけでも嬉しかったので、後々の詳しい情報を寒天のように、するすると聞き流していた。
 だから、瑠伊の情報はこんなものだ。
 部屋は奈々子の隣。   
 暮らす寮には、露天風呂がある。
 この二つだけであった。
 だから、瑠伊から聞かれた奈々子は目を丸くした。
「どこって、兵庫県ですよ」
 聞いた瑠伊も目を丸くした。
「ひ、兵庫県!? 」
「そうですよ」
「東京から新幹線でどのくらい!? 」
「今なら、二時間ぐらいですよ」
 今なら、小学生でも行ける時間だ。
「じゃあ、ここ大阪からは!? 」
 おい、おい。聞かなくても分かるだろう。奈々子も、そう思っている。
「新快速で一時間ですよ。JR姫路駅ですから」
「姫路市!? 」
「ええ。そこからバスで約一時間行ったところですよ」
 瑠伊は、思った。
『遠い……』
 まさか、そんな所から奈々子が来ているなんて知らなかったのである。
 しかし今更、キャンセルなんて出来ない。瑠伊の荷物は、既に奈々子の寮に運ばれているからだ。
 奈々子は頭が真っ白になっている瑠伊の背中を叩き、
「さぁー、行きましょう。寮の皆が待ってますよ」
 積極的に瑠伊の手を引っ張って、二人はJR大阪駅に向かった。
 だが、瑠伊は新なる事実と運命を知らなかったのである。
 ただ駅に向かう途中、マクドナルドによった時に、
「これでやっと、普通の受験生になれる」瑠伊は幸せを噛み締めていたのである。
 奈々子に奢ってもらったんだが……。

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創作人 Wordpress

小説と詩を書いています。 「月の詩」シリーズをAmazonにて販売&配信中です。

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