これが私の生きる道?!

第一章 お笑いなんて、大嫌いっ!!⑷

 刺したのは、一太郎だ。
「君、社長が大丈夫と言っているんだ。下手な芝居は打たないよ」
「は、はい」
 凄む一太郎に、泣きそうな女の子。
 しかし、女の子の表情が救世主が現われたかのように一変した。
 バン!!
 手の平が、コンクリートの壁に叩きつけられた。
 先程、一太郎が突き刺したバタフライナイフの真横に立ち、ポニーテールのした女の子がそれはそれは物凄い形相で一太郎を睨み付けていた。その睨み付け方は、怖いお兄さんでも素早く道を譲るほどの威力はある。とても救世主には見えないが、一太郎に凄まれている女の子にしてみれば救世主なのだろう。「瑠伊さん! 」
 女の子は涙ぐんだ顔で瑠伊に寄り添った。「あら、欠けてるコンビって、ナナちゃんだったの」
「よろしくお願いします、瑠伊さん! 」
 『ナナちゃん』こと、後藤奈々子は頭を下げた。
 実は瑠伊の幼なじみである。
 奈々子の夢の為に、瑠伊がある意味での説得をして一太郎の事務所に入れてやった芸人でもある。
 その夢は、実に普通。
『メジャーになって、家を建てる』
 売れてきた芸能人が一番最初にやる、親孝行のトップを飾る、お決まり行事だ。
 でも、確率は低い。
 宝くじで一等を当てるようなものだ。
 言い方のニュアンスを変えれば、奈々子のようになれるのだ。
 瑠伊は流石に断れなく、
「分かったわ」
 奈々子の頼みを聞き入れた。
 奈々子は落ち着いたかのように胸を撫で下ろした。

 そんな健気な奈々子に、瑠伊も微笑ましく見ていたが、その反対に瑠伊の表情が一変する。
 その矛先はもちろん、
「い、いつもより早かったじゃないか」
 少し怯えている一太郎である。
「携帯は壊さなかったの、瑠伊ちゃん」
 声も震えている。
「携帯なら壊れたわよ、誰かさんが受験勉強の邪魔をしてくれたお陰で」
 といいつつ、購入したての真新しい携帯を見せびらかす。
 瑠伊は一太郎に近付き、
「パパ。この不況の中、大事な芸人やタレントを脅すなって、私が何度言えば聞き入れてくれるのかしら? 」
 作り笑いで話すが、その声は既にこれから始まる大爆発の兆候である事を奈々子は知っている。証拠に叩きつけたコンクリートの壁に瑠伊の手の平が埋まっていた。
 多分、この会場が壊されるまで、永遠と語り継がれるだろう。
「そのために、一体、何人の芸人やタレントが逃げ出したのでしょうね!? 」
 一太郎の襟元を締め付けていた。
 締め付けられた瞬間、一太郎の顔は青くなっていた。
「瑠伊さん、瑠伊さん! 」
 慌てて奈々子が止めてなかったら、悲惨な殺人事件で三面記事を飾っていた。
 気絶しかけの一太郎を尻目に、
「パパ。今回限りで、もう金輪際、私を呼ばないで頂戴! 」
 名台詞になりつつある台詞を履き捨て、瑠伊は奈々子と一緒に控え室に入った。

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創作人 Wordpress

小説と詩を書いています。 「月の詩」シリーズをAmazonにて販売&配信中です。

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