トツドル!

突然アイドルになりました⑵

いよいよ始まった。 というても映画館のこけら落としだから歌以外は挨拶程度だけなので台詞さえ間違えなければいいわけでして……。「今、思ったのですが、私達ってなんてグループなんですか? 」 手順を再度読み返して気が付いた。「さて⁈ 」 南畝さんも知らない。「伯父さん、どうなの⁈ 」 聞いてみたが何も言わない⁇「ま、まさか考えてない⁈ 」「今日は『姫川市ご当地アイドル』で」 考えていないんだぁー……。 発表するなら普通考えるべきでしょうが! とあれこれと考えていたら「それでは本日から始動するご当地アイドルさんに登場して頂きます」 コールがかかった。「芽衣ちゃん、頑張ろうね」 トンと私の背中を押した。 よくテレビで見る映画館の試写会の様子が今まさに起こっている。映画館なんて観る側ならあるけど、見られる側は緊張感がある。 秋の時は話の流れでステージに上がったが、今回は違う。「初めまして! 私達、姫川市のご当地アイドルです」 2人合わせて言ったけど……やはりグループの名前が欲しいよぉ~。 あらかじめ決められた台詞が言い切れたけどね。 今日の客席はやはりお偉いさんばかり。 映画館ってこんなに固いの⁇という感じで見られている。 ガチガチな私に「歌……いくよ」 小声で話す南畝さんが右手を握る。「はい」 握る手を握り返した。 初めてじゃない。 だけど……。『こんなに重い?』 見えないプレッシャーがかかってきた。 今日のステージは映画館のお披露目も兼ねた企画のご当地アイドルを確認する為にきたスポンサー達のお披露目ライブだと伯父さんは言う。『芽衣ちゃん、視線は……』『分かっています。遠く真っ直ぐですね』『正解! 』 2人背中を合わせ、お互いの手を握り返す。 イントロが流れ出す。 知っている曲って……去年と同じ⁇「私達、姫川市を今後応援をさせていただきますご当地アイドルです! 今後ともよろしくお願いします! 」 南畝さんの掛け声で始まった。 今度はちゃんと自分で見なきゃ! グッとマイクを持つ手を握って観客席を見た。『しっかり見える! 』 自分でも驚く程にしっかり見える! 足もしっかりステップが踏めている! イケる! 緊迫感はあるけれど、去年とは明らかに違っていた。 時より南畝さんの横顔を見てステージの手前も見れる。 これがアイドルのステージ! 今、自分がどんな顔をしているかはわからないけどステージ裏から見ている伯父さんの顔は明らかに驚くほどにびっくりしているのはしっかり見えていた。
「「お聞き頂き、ありがとうございましたぁー!」」 2人同時に挨拶を終えてステージ裏に戻る。 伯父さんは「凄いな、お前」 「え⁇ 」 帰ってくるなりに開口一番に言った。「初心者でいきなりステージに上がって歌えるなんて普通出来ないぞ……」「あははは」 二度目だけど……ね。「ね! この娘凄いでしょ⁈ 私が推薦するんだから当然! 」 南畝さんも良かったよと耳元に囁いた。「はぁー。とにかく伯父さん……」「な、なんだ⁈ 」「スポーツドリンク、ちょーだい……」 ステージの成功以上に喉が乾ききっていた。 なんとか無事に終わった。 なんとも言えない爽快感と緊張感があった。 家に帰る途中の走るバスの中でも移り変わる風景を眺めながら炭酸が抜けたコーラーの様にボーとしていた。 伯父さんも南畝さんも褒めてはくれたけど私自身はどーだろう……か。 また次も同じように出来るのだろうか? 次はステージに立つことも出来ないのだろうか? 本当にアイドルとして活動をするのだろうか? 安堵感よりも不安が横切る。「ただいまー」 力無く家にたどり着き、自分の部屋のベッドに倒れこんだまま記憶がなくなるかのように動かなくなっていた。
朝。 外の木漏れ日とちゅんちゅんと鳴るスズメの鳴き声が聞こえて目が覚めた。「芽衣! 起きなさい、学校遅れるよ」「は、はぁーい」 時計を見て学校の準備をして食卓にあるトーストを食べ牛乳を飲み顔を洗う。「やはり夢……だよね」 クスッ……。「だよね。だいたい私がアイドルだなんて出来るわけないし! 昨日はあくまでもアルバイトだよ」 自分に言い聞かせて玄関を出た。 バス停までの間に電気屋さんがあるディスプレイには大画面のテレビが展示している。私は日課で簡単な天気予報を確認する。 今日は姫川市のケーブルテレビのチャンネルだ。「どれどれ……と。今日は晴れかなぁ~」 髪型の手直しと合わせて覗き込むと画面に南畝さんがいきなり出た。 「朝からびっくりしたなぁ。まぁ、芸能人だから当たり前か」 と、普通に見ていたら『姫川市ご当地アイドル爆誕! 』のスパーと同時に「うん? 」 なんか見慣れた顔が画面に出た。「……えーと……。私……だよね」 まずは深呼吸。 そして目を閉じる。 更にもう一度深呼吸。 そして目を開けた。「やっぱり夢じゃない! 」ぽん。「おはよう、芽衣ちゃん」 いきなり後ろから声が飛び込んできた。 驚きのあまりに尻餅をついた。「だ、大丈夫!? ごめんごめん、驚かして」「いえ。私も……って誰⁇ 」 制服は私の学校と同じのようだが……。「あ! 眼鏡してるからわからなかったかな? 」 ワインレッドの縁の眼鏡を外すと「の、南畝さん⁈ 」 同じ学校だったんだぁ……。「じゃあ、先輩? ですか? 」「一個上の学年だからね」 知らなかった。 同時に泣き出した。「あ、やっぱり痛かった? 」「ゆ、夢じゃなかったよぉー」 姫川 芽衣……十五歳……、間違いなくアイドルになっていました。(続く)

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創作人 Wordpress

小説と詩を書いています。 「月の詩」シリーズをAmazonにて販売&配信中です。

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