トツドル!

秋空の下

私達3人はステージに上がった。初めて上がったステージは高さ2メートルも無いのにそれ以上の高さを感じる。 いつもこんな場所から歌っていたんだ。 視線を真下に向け更に真っ直ぐに見つめたら多数の人々が集まっていた。「ね! アンタ、そういえば名前は⁈ 」 南畝さんが聞いた。「姫川……芽衣です」と、ポツリ。「姫川って、市の名前と同じだね」「よく言われます」 っと南畝さんは帽子や眼鏡やマスクを外しマイクを持ってイキナリ叫んだ。「みんなーー! 聞いてーー! 今、私の側にいる女の子が迷子になっているのーー! 私も探したいけど大変だから一緒に探してね! ライブはその後‼︎ よろしくね! 」 同時に最前列のお客さん達が一斉に声かけを始めた。 す、すごい……。 たった一人でこんな大勢の人を動かすなんて。 「この娘のご家族の皆さん! もしも見ていたらここまで来てくださいね! 」 見ていたら⁇ 聞こえてたらじゃなく⁇ 後ろに向いたら巨大なスクリーンに私達3人がバッチリ映っていた。圧倒される間もなく南畝さんは喋り出した。「見つけたら私とこの姫川芽衣さんの生写真をあげるよーー! 私なんか私服だからレアだよーー! 」 ええーー! 生写真⁇ 「南畝さん何を言っているんですか? 私なんか一般人! 」「バカねー。ただ「ありがとうございました」で動くと思う⁈ アナタも私のファンなら知っているはずよ。『一善隊』を」 確かに知っている。一日一善アイドル南畝 香織の熱狂的なファンを『一善隊』と呼ぶ。ライブ前か後に周辺のゴミ集めやお年寄りの方に譲ったりと、とにかく一日一善をすることが南畝さんへのファン愛という集まりだ。「その一善隊や他のファンの皆さんへのお返しに無料でサインや生写真をプレゼントしているの」「でも私の生写真なんて……」 ただの女子中学生なんかね……。「この後のライブも私の隣で一緒にするよ」「はい⁈ 」 何を言っているの、この人⁇ 頭から足先まで真っ白になった私であった。
迷子の女の子の身元探しも開始から五分もかからずに見つかり、私はなんか安堵した。本当に見つかって良かったと心底思えたのは初めてだ。 それもこれも南畝さんとファン達が積極的に私や女の子の代わりに探してくれたからだ。「……って、勝手に一人で納得して終わらせよーとしてないでしょうね? 」「な、なんのことでしょうか? 」 エスパーか! 「今からライブ! 」 嗚呼、夢じゃなかった‼︎ 中学生のど素人の私に歌えという鬼畜な話が!「これだけのことをしたんだからやってもらうわよ」 って、「南畝さんが勝手に話を大きくしたんでしょう‼︎ 」「でも結果見つかったし、あの娘も泣かせずに済んだし」 まぁー、そーですが……。「ってことで、私と一緒に! 」「そこが何故?となるのですが……⁇ 」 南畝さんはニヤッと顔を歪ませた。「動画サイトに私の歌でパフォーマンスをしている女の子がいるんだけど」「はい⁈ 」 ドキッ!「しかも中学生くらいの女の子らしくてね、私も見たけど完コピしていたわ。本当! スゴいわねー」 っとバン!と私の両肩を叩いた。「へー、初めて知りました」 お、怒られるーー。最悪ライブ出入り禁止を喰らう⁇「あんだけの完コピだからほとんどのライブに行ってないと出来ないよね! 」「で、何故私と? 」 バレバレですか⁇ もしかして?「……私のライブに出入りしている常連の女子中学生ってアンタしかいないし! 私のアドレスは春に教えたよね? 」 それも勝手に……。 これで私のヲタライフが終わった!「やっぱりアレは……」 やっぱり許可じゃなかった?「何を言っているの? 反対に感謝しているのよ。南畝 香織』っていうアイドルをひろめてくれたから」か、感謝!? 喜んでイイ⁇「顔を隠しているから誰か最初は分からなかったけど。ってことで、ライブしましょうね! 今後も動画したかったらね! 姫川……ハンドルネーム姫ヒメ少女』さん!」「……はい」 半ば脅迫に近いけど承諾するしかなかった私でした……。
ステージに初めて立った。 南畝さんから遠くを見てと言うことから遠くを見ていたら本当に人だかりでいっぱいだ。 そしてまだ歌ってもいないのに騒ぎ立つコールが耳元に鳴り響く。 私も南畝さんもヘッドセットと言う耳元にマイクがあるタイプのマイクを装着して立っている。 こんな場でいきなり出来るかなぁ~と小言を呟いていたら「普段通りにしたらいいのよ」 南畝さんは呟いた。「は、はい。私、歌うのサビだけでいいんですね⁈ 」「うん。後はダンサーとして私に合わせて」「それくらいなら」 ちょっと安心した。最前列の一善隊が私を見ていた。 気がついた南畝さんが言い始めた。「今日のライブはサプライズ!彼女は先程迷子の娘を保護していた姫川芽衣さんです。この一曲だけになりますが、お礼を兼ねて私とデュオします! 私だけでなく一緒に応援ヨロシクねー‼︎ 」 一斉に甲高い声が下から持ち上がるほどの勢いで響き渡る。 私の身体全身に電気が走る。 こ、これがライブ! す、凄い‼︎ 動画の配信や観客として見ていた感覚と違うのは明白だ。 そして「いくよー! 」の南畝さんの声で始まった。
曲はあらかじめ私の動画サイトから選び、即興のアレンジを加えている。ペアで踊ることのない南畝さんも少し戸惑いがあるみたいだけど、やはり凄い。私はついていくだけで精一杯だ。 動画撮影では場を動くことがないし、ステージの使い方もわからない。 だけど湧き出すコールが耳元に鳴り響く度に重かったステップが次第に軽くなっていった。 私、出来ているのかなぁ? そんな危惧も何もわからなくなっていった。ビシバシと足元からくるコールが私の身体全体に当たる感覚を初めて知った。 普段の生活では絶対に味わえない非日常の空間にいるカオスな状態を体験していた。 なんとか終わった。 会場の雰囲気や状態を確認すら出来ない。 ステージでよく倒れなかったというしかない。「はい、お疲れ様」 南畝さんは冷たいスポーツドリンクを頬に当てた。「あ、ありがとうございます」 手を出した。「初ステージ、どうだった? また、やりたい⁇ 」 優しく問いかけた。「もう……こんなステージ、やりたくないです」 開口一番、今の心境を伝えた。「そう……」 私は顔を埋め「緊張したし、ステップするだけでドキドキしたし、南畝さんについていくだけで精一杯で息切れしたし、頭と身体がバラバラだった……」 泣いた。 まだ会場はコールが鳴り響いていた。 南畝さんの名前、私の名前を交互にコールしている。「だけど、みんなのコールがあったからなんとかやり遂げた感じだよぉー」 ボロボロに溢れる涙をハンカチで拭いても拭いても拭いても止められなかった。「おー、よしよし」 南畝さんは頭を撫でた。「……あんな失敗だらけのステージ、これが最後にしたいです……」
「うーん、つまり……それはまたやってくれるってことよね⁈ 」 南畝さんは明るい笑顔を私に見せた。 同時に思う。 え? 初めからそのつもり⁈ 目が点になった。「よろしく、ね」「は、はい」 南畝さんと握手した。 そして気が付いた事実が判明。「私、高校受験が……」「そうなんだ。じゃ、まだ先だね」「受験が終わってからになりますね」 南畝さんはクスクスと笑った。(続く)

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創作人 Wordpress

小説と詩を書いています。 「月の詩」シリーズをAmazonにて販売&配信中です。

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